大学入試改革により、2021年度入試より小論文を入試科目として採用する大学が急増しました。実際にどういうテーマが出題されていたのかを紹介します。今後の受験勉強にぜひご活用ください。
2019-2022年度の神戸大学の小論文テーマ
2019年度から2022年度の神戸大学の小論文テーマ一覧は以下のとおりです。
年度 | 学部・学科
(試験種別) |
小論文の種類 | テーマ |
2022 | 文学部
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 次の文章は、佐藤直樹『創発の生命学―生命が1ギガバイトから抜け出すための30章』の一節である(ただし、一部に変更と省略がある)。これを読んで、後の問1~3に答えなさい。
問1. 傍線部①「分子生物学さえあれば、生物の学問は何でもわかるのだろうか」という問いに対する著者の答えとその論拠を、300字以内で説明しなさい。 問2. 傍線部②「このようなシステム的な理解があれば、生物のことは何でもわかるのだろうか」という問いに対する著者の答えとその論拠を、400字以内で説明しなさい。 問3. 傍線部③にあるように著者は「声明を創発的に理解しようとしている」が、本文における「創発的」の意味を明らかにしたうえで、こうした立場に対するあなたの考えを、現時点であなたが思い描いている文学部での学びと関連させながら、800字以内で論述しなさい。 |
法学部
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 日本の国会や地方議会において、女性議員の数は少ない。こうした女性の過小代表の状況を改善する一つの手段として、クオータ制の導入が考えられる。クオータ制とは、「政治の意思決定の場における男性優位を是正するために、候補者や議席、政党幹部の一定比率を女性(あるいは両性)に割り当てる制度」とされる。以下の資料【1】~【4】を読み、政治の意思決定の場において、クオータ制を導入することの根拠を、それらへの反論を含めて1000字以内でまとめなさい。解答を作成するにあたっては、あなた個人の見解を述べるのではなく、資料に書かれている内容に基づいて記述すること。また、すべての資料を用い、どの資料に依拠したかを資料の番号を示して明らかにすること。資料番号は、【 】を含めて1マスで示してよい。
【資料1】出典:山田邦夫「女性の政治参画とクオータ制議論―政治分野における「多様性」の確保―」『ダイバーシティ(多様性)社会の構築:総合調査報告書』(国立国会図書館、2017年) |
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国際人間科学部・グローバル文化学科
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 次の文章を読んで、あとの問1~3に答えなさい。
出典:リサ・フェルドマン・バレット(高橋洋訳)『情動はこうしてつくられる―脳の隠れた働きと構成主義的情動理論』(紀伊国屋書店、2019年)。ただし、本文の一部に改変および省略がある。 問1. 傍線部(a)において、「構成主義的情動理論」はどのような考えを取り入れていると筆者は考えているのか、本文の内容に即して200字以内で説明しなさい。 問2. 傍線部(b)において、「怖れの感情から怖れのインスタンスを割り出すことはできない」のはなぜか、「中核システム」、「インスタンス」の二つの語を用いて筆者の考えを400字以内で説明しなさい。 問3. 私たちの情動は異なる文化や社会的状況で、どのように他者から理解されるのか、「悲しみ」を例に「古典的理論」と「構成主義的情動理論」を比較しながら、自分の考えを1000字以内で論じなさい。 |
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国際人間科学部・発達コミュニティ学科・環境共生学科(文科系受験)・子ども教育学科
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 次の文章を読んで、あとの問1~4に答えなさい。
出典:藤田政博『バイアスとは何か』筑摩書房、2021年。(ただし、本文の一部に改変および省略がある) 問1. 傍線部ア「楽観バイアス」とはどのようなことか。本文の内容に即して100字以内で説明しなさい。 問2. 傍線部イ「しかし、それが災害場面で発揮されると正常性バイアスになり、避難の遅れの原因にもなります」とあるが、それはなぜか。本文の内容に即して200字以内で説明しなさい。 問3. 傍線部ウ「錯誤相関」はどのようにして生じると筆者は論じているか。本文中の表1および表2の実験の内容に触れながら、400字以内で説明しなさい。 問4. 本文全体のバイアスに関する論旨を踏まえて、あなたはどのような社会を「望ましい社会」と考えるか。そしてその社会の実現に貢献するためにあなたは本学科でどのようなことを学べると考えるか。合わせて800字以内で論じなさい。 |
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2021 | 文学部
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 次の文章は、船木亨著『デジタルメディア時代の≪方法序説≫』の一節である(ただし、一部に変更と省略がある)。これを読んで、あとの(1)~(3)に答えなさい。
(1)傍線部①「重要なことは、こうした時間理解のもとでは、オリジナルとコピーの区別が曖昧になってくるということです」とあるが、なぜ曖昧になるのか。「こうした時間理解」の内容を明らかにして、300字以内で説明しなさい。 (2)傍線部②「現代では実在よりも現実が重要な主題になりつつあります」とあるが、それはなぜか。本文中で用いられた例を適宜引用しながら、400字以内で説明しなさい。 (3)傍線部③「こうした意味での『情報化』によって、思考と呼ばれてきたものが、内容的にもまた主体との連関においても曖昧なものになってきている」と筆者は述べている。「こうした意味での『情報化』」とはどのようなことを指し、それによって思考はどのように変わってきているのかを明らかにした上で、それに対するあなたの考えを800字以内で書きなさい。 |
法学部
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 日本では、近年、内閣総理大臣や政治家による官僚への統制が強化されていると指摘される。以下の資料【1】~【5】を読み、政治家が官僚を十分に統制できていない場合の問題点を指摘した上で、内閣総理大臣や政治家による官僚への影響力が弱まったことの長所と弊害を1000字以内でまとめなさい。解答にあたっては、あなた個人の見解を述べるのではなく、資料に書かれている内容に基づいて記述すること。また、すべての資料を用い、どの資料に依拠したかを資料の番号を示して明らかにすること。資料番号は、【 】を含めて1マスで示してよい。
出典: |
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国際人間科学部・グローバル文化学科
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 次の文章(ダニ・ロドリック著 柴山桂太・大川良文訳『グローバリゼーション・パラドックス――世界経済の未来を決める三つの道』より一部省略・改変をした部分を含む)を読んで、あとの(1)~(3)に答えなさい。
(1)傍線部(ア)「世界経済の政治的トリレンマについて」、「グローバリゼーション」、「民主主義」、「国民的自己決定」の三つの語を用いて100字以内で説明しなさい。 (2)傍線部(イ)「グローバル・ガバナンス」とは、トリレンマ状況において、何と何を選択し、何をあきらめた状態であるか説明したうえで、グローバル・ガバナンスについて筆者がプラスに評価している側面とマイナスに評価している側面の両方について250字以内で書きなさい。 (3)世界経済の政治的トリレンマに関連したイシューを一つ挙げ、そのイシューについて、グローバリゼーションがもたらすメリットとデメリットを指摘しなさい。あなたが取り上げたイシューでは、国民民主主義とグローバル市場の間の緊張について、どう折り合いをつけている、あるいはつけることができると考えられるか。本文中の議論に言及しながら、1000字以内で論じなさい。 |
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国際人間科学部・発達コミュニティ学科・環境共生学科(文科系受験)・子ども教育学科
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 次の文章(川田学著『保育的発達論のはじまり――個人を尊重しつつ、「つながり」を育むいとなみへ』より一部改変・省略)を読んで、(1)~(4)に答えなさい。
(1)傍線部(ア)「私は、どこか違和感を覚えました」とあるが、筆者が違和感を覚えた理由を、100字以内で説明しなさい。 (2)傍線部(イ)「こうしたおとなの事情と、日々の暮らしのなかでの子どもの自己決定を、同じ理屈で考えるとおかしなことになってきます」とあるが、筆者がおかしなことになると考える理由を、150字以内で説明しなさい。 (3)傍線部(ウ)「主体性とは、『その子どもが周囲とのあいだに結んでいる関係の状態』である」が意味するところについて、本文であげられている保育実践に言及しつつ、400字以内でわかりやすく説明しなさい。 (4)本文全体の論旨を踏まえた上で、あなたが本学部の受験を[自己決定]した理由を、800字以内で記述しなさい。 |
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2020 | 文学部
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 次の問題は、山崎正和著『リズムの哲学ノート』の一節である(ただし、一部に変更と省略がある)。これを読んで、あとの(1)~(3)に答えなさい。
(1)傍線部①に「しかしこの常識がまったくの錯覚であることは『私』自身の『内面』の体験をのぞいてみただけでもただちにわかる」とあるが、具体的にどのようにしてわかるのか。300字以内で説明しなさい。 (2)傍線部②「『エス』の実質的な内容」を筆者はどのように考えているのか。400字以内で説明しなさい。 (3)筆者が述べるように、考える主体が「私」でないとすると、考える行為において「私」はどのような役割を担うことになるのか。また、どのような姿勢で考える行為に関わればよいのか。筆者の意見を踏まえ、あなたの意見を800字以内で述べなさい。 |
法学部
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 近年、ビッグデータに基づいて個人の行動を予測する試みが行われている。他方でそれに伴う様々な問題についても議論が勧められてきている。以下の資料【1】~【4】を読み、これらの資料のすべてに基づいて、ビッグデータによる予測の活用がもたらす効用と脅威について、それが誰に対して、どのような影響を与えるものであるかを明示しながら、1000字以内でまとめなさい。
【資料1】照井信彦著『ビッグデータ統計解析入門』 【資料2】山本龍彦「AIと憲法問題」、山本龍彦編『AIと憲法』 【資料3】古谷貫之著「AIと自己決定原理」、山本龍彦編『AIと憲法』 【資料4】山本龍彦著『おそろしいビッグデータ』 |
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国際人間科学部・グローバル文化学科
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 次の文章(萩野昌弘「戦争と社会学理論―ホモ・ベリクスの発見」(好井裕明・関礼子編『戦争社会学』)より一部省略・改変した部分がある)を読んで、あとの(1)~(3)に答えなさい。
(1)本文中に二か所ある傍線部(ア)の「根本的矛盾」とはどういうことか。本文の内容に則して、100字以内で説明しなさい。 (2)傍線部(イ)で「両義的存在」とあるが、どのような意味で両義的なのかを説明した上で、それに着目することがなぜ「不可欠」なのかを250字以内で説明しなさい。 (3)筆者は、「シャルリー・エブド襲撃事件」を現代社会におけるどのような課題の一例として取り上げているのかを、旧宗主国と植民地、あるいは移民とその受入国の関係に注目した上で説明し、筆者のそうした認識に対して、もし自分がその「両義的他者」だとしたらどのように考えるか、この文章で言及されていない他の事例を取り上げながら、1000字以内で論じなさい。 |
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国際人間科学部・発達コミュニティ学科・環境共生学科(文科系受験)・子ども教育学科
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 次の文章(稲垣良典著『習慣の哲学』より引用、本文の一部に改変および省略がある)を読んで、後の(1)~(4)に答えなさい。
(1)傍線部アに「違った一連の用例」とあるが、「習慣」という言葉をめぐる二つの用例の違いについて、本文中の語句を用いて150字以内で説明しなさい。 (2)傍線部イにおける、われわれは「この子が歩く習慣を身に着けた」とか「話す習慣がついた」とは言わないという指摘は、どのようなことを示しているのか、本文に即して250字以内で説明しなさい。 (3)傍線部ウで述べられる「新しい環境に『慣れる』」とはどのような過程なのか、本文に即して300字以内で説明しなさい。 (4)傍線部エに関連して、「習慣」と「自己」とはどのような関係にあるのか、本文における「習慣」「および「慣れ」をめぐる議論を踏まえながら、あなたの考えを600字以内で述べなさい。 |
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2019 | 文学部
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 次の文章は、今福龍太『ヘンリー・ソロー 野生の学舎』の一節である(ただし、一部に変更と省略がある)。これを読んで、あとの(1)~(3)に答えよ。
(1)傍線部①に関して、「知識」と「知性」との違いを300字以内で説明しなさい。 (2)なぜ霧という自然現象が「ソローによって特別の現象にして象徴となった」(傍線部②)のか、400字以内で説明しなさい。 (3)学ぶとはどのような営みか、この文章の内容を踏まえ、あなたの考えを800字以内で述べなさい。 |
法学部
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 現在日本では、代理懐胎(代理出産)の許否について法律による規制は存在しておらず、これを許容すべきかどうかについて様々な観点から議論がなされている。以下の資料【1】~【4】を読み、これらの資料のすべてに基づいて、代理懐胎(代理出産)を許容することに肯定的な論拠と否定的な論拠(それぞれに対する反論・再反論を含む)を1000字以内でまとめなさい。その際には、資料ごとにまとめるのではなく、論点ごとにまとめること。解答にあたっては、どの資料によったかを資料の番号を示して明らかにしなさい。資料番号は、【 】も含めて1マスで示せばよいものとする。
【資料1】日本学術会議・生殖補助医療の在り方検討委員会『代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題:社会的合意に向けて』 |
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国際人間科学部・グローバル文化学科
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 次の文章(椹木野衣著『日本・現代・美術』)を読んで、あとの(1)~(3)に答えなさい。
(1)本文中に二箇所ある傍線部(ア)「奇妙な前衛」とは、どのように「奇妙」なのか。筆者の考えを200字以内で説明しなさい。 (2)傍線部(イ)「互いに対立するはずの概念が奇妙に同居し」とあるが、筆者はどのような状態が生じていたと考えているのか。400字以内で説明しなさい。 (3)本文の内容をふまえたうえで、ある国の地域や文化が、グローバル化する世界においてどのように理解されるかについて、具体的な例をあげながら、1000字以内で論じなさい。 |
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国際人間科学部・発達コミュニティ学科・環境共生学科(文科系受験)・子ども教育学科
(一般後期) |
課題文読み取り型 | 問題. 次の文章(一川誠『大人の時間はなぜ短いのか』より、一部改変・省略)を読んで、あとの(1)~(4)に答えなさい。
(1)傍線部アに関連して、人間の時間的制約とはどのようなことか。200字以内で説明しなさい。 (2)傍線部イに関連して、なぜ、自分たちの知覚や認知の過程に様々な制約があることを知っておくべきなのか。その理由を300字以内で説明しなさい。 (3)傍線部ウに関連して、睡眠障害はどのような問題をもたらすか、本文に即して300字以内で説明しなさい。 (4)本文における時間の均一化の特徴とその問題点を踏まえて、どのようにグローバル化が進む社会に対応していくことが望ましいといえるか、あなたの考えを600字以内で論じなさい。 |
2019-2022年度の神戸大学の小論文傾向
2019-2022年度の4年間、傾向はずっと一定でした。共通する特徴は下記の3点です。
・課題文読み取り型
・字数は1500字前後
・本文内容の記述中心
国公立大の小論文試験でよく見られる、二次試験の現代文のような問題です。本文内容をきちんと読み取り、正確に記述する力を試されています。傾向が変わらないため、対策もしやすいです。
まずは国語の読解・記述練習を中心に行いましょう。
文系で神戸大を受ける受験生であれば、遅くとも高3の2-3学期に現代文の二次対策を行うはずです。その際に、小論文を意識して勉強してみると効果的です。
例えば、「~はなぜか?」のような設問を作って解答してみます。用意された解答はありませんが、解説をかなり参考にして添削できます。小論文の勉強になるだけでなく、現代文の記述対策としての効果も相当見込めます。
また、最後の設問は必ず「あなたの考え」を書くように求められています。「自分の考えを書きなさい」と言われると難しそうに感じるかもしれませんが、実質は本文内容の要約が最も大きなポイントです。あくまで本文の内容に沿って書くように誘導されているからです。
本文のテーマも、現代文の評論問題によく取り上げられるようなテーマが多いです。二次対策がそのまま小論対策につながりやすい小論文入試と言えます。
法学部だけ傾向がやや異なり、4-5つの課題文を読んでその内容をまとめる問題です。事実と意見、賛成と反対、反論と再反論を整理しながら読む練習をすると早く書き慣れるでしょう。
法学部の小論文対策も、現代文の勉強の延長線上で取り組むほうが良さそうです。複数の資料や課題文を読む問題が共通テスト対策用の問題集などにあります。整理しながら読み、整理した内容を記述する練習を加えておくと効率的に対策できそうです。
最後に、神戸大の入試は全般的に傾向が明確で、奇問・難問が少なく、オーソドックスな対策ほど効果的です。そのため、傾向が急に変わったときに戸惑う受験生が多いです。勉強するときには「過去問のイメージ」が大切ですが、受験するときにはそのイメージは捨てておくほうがいいです。
京大の自由英作のように、ずっと変わらなかった入試傾向が突然変わることがあります。神戸大でも、一般前期の英語で、リード文がすべて英語で書かれていた年度があります。問題の難易度や傾向は変わらなかったので、あわてずに取り組めた受験生は過去問と同じように解答できました。傾向をあまり変えてこない大学ですが、変えられても大丈夫なように準備しておきましょう。
小論文の書き方についてはこちらでも紹介しています。
手早く合格を取れる小論文の書き方とは?塾関係者が例文付きで解説!
まとめ
いかがでしょうか。神戸大の小論文入試は傾向が変わりません。求めているポイントは明確で、「本文の正確な読み取り」と「正確な記述」の2点です。オーソドックスな実力を求めているからこそ、実力をつけることを意識するほうが合格しやすい大学です。
小論文の対策は大抵、入試3か月前からで間に合いますが、もっと準備期間を必要とする大学もあります。いつから受験対策を始めればいいかご不安な方は、ぜひ弊社のホームページをご覧ください。